「幸福の研究」デレック・ボック著 東洋経済新報社2012/01/05 22:21

現代の世界では長く経済の成長こそが幸福をもたらすと考えられ、事実多くの国では経済成長を政策の主眼に置くことが当然のように行われてきた。
ところが、米国では2008年の金融危機、日本では2010年の東日本大震災と福島第一原発事故をきっかけに、必ずしも経済成長を求めて物質的な豊かさを得ることが、国民の幸福とは結びつかないのではないかという考え方が広まりつつあるように思う。

本書はまさにこのタイミングで出された経済成長論への反論である。
すなわち、米国の国民への調査結果からは、幸福度の平均水準は50年間ほとんど変わっていない。財をなすことに重きを置く人は平均以上に不幸や失望を感じやすい傾向にある。
日本と同様米国でも、「経済成長」が望ましい目標への手段から目標それ自体に変わってしまっているという。

ただ、本書でも触れられているが、幸福とは相対的な概念であり、これを政策的な目標の第一とするには多くの困難を伴う。
たとえば、先進国の貧困と定義されている人たちもテレビ、冷蔵庫、自動車、携帯電話などたとえば1910年代の所得上位10%層以外のすべてを上回る生活水準で暮らしているという。
本書では幸福は、非常に重要な目標であるが、政府の目標の一つにすぎないというのが結論のようである。

なお、本書はアメリカの政策について多くを割いているが、年金にしろ医療にしろ教育にしろ多くの問題を抱えていることがわかる。
また、興味深い議論として、多くの余暇を持った人たちは読書などには時間を割かずにテレビを見ることに時間を振り向ける傾向にあるという。
政治教育についての議論も興味深い。
アメリカでも公民の授業はテキストを読んでプリントの問題を解くことであり、市民がいかに政治に参加するかとか身近な事柄と政治がどのように関係しているのかといったことの学習に欠けるという。

ダニエル・カーネマンをはじめとするここ最近の幸福研究と成長至上主義に代わる政策のあり方の方向性もみえてくる。