「カール・ポランニー」若森みどり著 NTT出版2012/01/15 15:19

経済学者であり社会学者であったポランニーの生涯とその著作についての研究書。
 その生涯を、思想形成期であったハンガリー時代、社会科学者として社会主義に傾倒していったウィーン時代、名著「大転換」を執筆したイギリス時代、そして第二次大戦後その思想の集大成を築き上げていったアメリカ時代に分けて論じている。

注目すべきは、イギリス時代以降である。
この時期に今日の新自由主義に通じる経済的自由主義への批判的観察すなわち「市場経済の拡大はその危険に対抗する社会の自己防衛を引き起こす」というものであり、人間の労働や自然環境である土地、そして交換手段である貨幣のいずれも商品として流通するという市場社会への批判をしている。
この経済的自由主義の崩壊から、社会主義とファシズムが出現したという。

そして、晩年における思想である。
そこでは、原子力の産業利用を懸念し、マスコミニュケーションと大量生産、世論における同調主義的圧力といった新たな全体主義的傾向の出現とそこでの人間の自由を考察する。
現代社会は、資本主義も社会主義も自由や生きがいといった規範よりも効率第一主義にあり、高水準の生産に対応する需要をつくるために広告・宣伝を通じて欲求を人為的に作り出しているという観察をしている。
すなわち、経済成長それ自体が目的となり、効率そのものが目的でる社会となってしまっていると懸念し、何より原子力の産業利用を人間の自由と人類の存続を危険に陥れるものだと反対していたことは注目に値する。

本書で紹介されるポランニーの最晩年の言葉が印象深い。
「経済を人間的共同体の目的のための手段として…産業文明を乗り越える道筋を実現してゆく」としている。

今、フリードマンに象徴される新自由主義の終焉を前に、これからの新たな社会モデルがここにある。