「水危機 ほんとうの話」沖大幹著 新潮選書2012/07/22 01:42

水にまつわる学問水文学について最新の知見と著者の研究成果を総合的に解説した本。
普段われわれが常識と思っていることが、実はそうではないということが次々と明かされる。

・四大文明は、いずれも乾燥地帯に勃興した。川の水が確保できる日照の多い乾燥地帯の方が農業にはむしろ有利。そして、川の氾濫によって作物の収穫量が決まる。
・日本の水害は、20年で14兆円、戦後の水害死者の累計3万人にも上る。
・木を植えると豊富に水が使えるようになるわけではなく、水が豊富にあるから木を植える。
・治水事業が進むにつれて、上流の氾濫がなくなるために洪水到達時間、ピークの出現時刻が早くなる。
・今ではかなり正確に洪水発生予想が出されるようになっており、そういうときは学校は休校、会社も業務を切り上げるなどの措置をとるべき。
・人類の幸せのために地球環境を守るべきなのに、そこをないがしろにして地球環境の保全を声高に述べる、手段の目的化がみられる。
・過去110年の気象データを見ると、必ずしも最近になって豪雨が増えているわけではない。
などなど

そして著者は、仮想水という概念をつかって日本の輸入食糧を水に換算して発表して注目を浴びたが、必ずしもそれをもって危機をあおることはしていない。むしろ、仮想水貿易によって、水の生産性に比較優位の原則が働き、食糧生産に必要な水が節約されるとする。
すなわち、日本の仮想水輸入が多いからといって、日本が環境に不可をかけているとは限らないという。

断定的ではない独特の文体で、著者の考え方が素直に伝わってくる。
世の中には、間違っていないが正しいともいえないことがたくさんある、という著者の意識。
危機ばかりをあおるのはよくない。
地球を救うのではなく、人類の未来を守るために地球環境を守る。
などのメッセージが伝わってくる。

普段あまり意識しない水をめぐる問題点が身近なものとして捉えられ、浮彫りになる好著である。

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