「世界からバナナがなくなる前に」ロブ・ダン著 青土社2018/04/03 10:10

★★★☆☆

本書は、現代の農業において単一の作物を大農場で生産することによって生じるリスクを述べたものである。
事例として、バナナ、ジャガイモ、キャッサバ、カカオ、コムギ、そして天然ゴムの例が取り上げられる。

ここで感じるのは、われわれの身近な農産物がいかに脆いリスクの上にあるのかということである。
有名なアイルランドのジャガイモ飢饉は、アイルランド国民に壊滅的な被害をもたらし、なんと今でもピーク時の人口を上回っていないという。それどころか、この時発生したジャガイモ疫病の病原体に抵抗性を持たない品種を未だに栽培し続けているため、殺菌剤なしにジャガイモを栽培することはほぼ不可能な状況にあるという。

そしてもう一つ単一作物の大量生産に関わる懸念がテロである。
現実に、ブラジルのカカオ生産は、カカオの木に感染すると枯れてしまう天狗巣病に感染した枝をカカオ農園の沿道沿いの木々に結びつけるだけで、壊滅的な被害を受け、ブラジルにおけるカカオ産業は崩壊した。

同様に、ヘンリーフォードが大量生産しようとして失敗した南米におけるゴムの木のプランテーションも葉枯れ病にかかり失敗。現在は主に東南アジアがゴムの生産地であるが、未だに葉枯れ病に対する抵抗性のない品種が栽培され続けているという。

一方で、殺虫剤として機能するbt遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換え作物をアグリビジネス産業が普及し大規模な栽培がなされているが、これらに対する耐性を持つ害虫がいずれ出てくるのは時間の問題であるともいう。

これら問題に対する著者の回答は生物多様性である。
ここで紹介されるのは、世界各地で作物の種子を収集し一大コレクションを築いたロシアのヴァヴィロフ、そして世界各地の種子を永久保存することを目的とするスヴァールヴァル世界種子貯蔵庫を設立したファウラーである。

もう一つのアプローチとして著者が注目しているのは、クリスパーによる遺伝子編集である。

多くのことを教えてくれるとともに食糧問題について改めて深く考えさせられる著作となっている。
最後に著者の言葉を引用する。
「私たちにできるとても単純なことがある。まず食物を無駄にしないことだ。そして肉をあまり食べないことである。肉食はほぼ常に食物資源の浪費だと言える。…また、地元産の食物を消費し、先祖伝来の種子から育てられた作物や生態系を考慮した農業システムで生産された食物を選択しよう。」