「経済史」小野塚知二著 有斐閣2018/04/19 13:53

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本書は、学問としての経済史の入門書として描かれたものであるが、なかなかどうして深淵なテーマが込められており、読者に考えさせる著作である。

まず、はじめに著者は、以下のような質問を読者に問いかける。
a 経済はなぜ成長するのか。
b 人類はいかにして何十万年もの間生存してきたのか。
c 経済は実際にいかにして成長してきたのか。

その上で、経済を長い期間にわたって量的に拡張させてきた動因として、ヒトとは
際限のない欲望」の備わっている特殊な動物なのだと仮定し、議論を進めている。
そして、抽象的な欲望充足、社会的な欲望充足、現実的な欲望充足に分け、現実的な欲望充足のために効率性と分業を進めてきたとしている。

.さらに、「経済」とは、際限のない欲望を充足するために必要なものを領有、蓄積、生産、分配、消費、所有、交換する人間=社会の全過程であると定義する。

そして、現代とは、人々を欲望し続ける方向に誘導・介入するとともに、他方では科学を生産力的な突破のために動員して、欲望のより効率的な充足を可能にしようとした時代であるとする。

・最終章において、はじめにで読者に投げかけてきた問いの著者なりの考え方を提示する。
簡潔に言えば、人の際限のない欲望を充足することによって成長してきたのであり、一方で、この際限のない欲望を野放しにせず厳格に規制し続けたことによって長い間生存してきたのであり、欲望の対象物をより効率的に生み出す方法に技術・生産力・生産組織が革命的に変化し、欲望そのものも制約から解放され、さらに掻き立てられることによって、肥大化してきたとする。
ここで、著者は出口の問いを投げかける。
d 経済は今後も成長を続けることは可能か、あるいは、成長のない資本主義は可能か
e 人類が到達した文明は持続可能か

著者はここでは答えを用意していない。
代わりに次のように述べている。
「これまで人類が経験してきた転換期には次代の構想がいくつも示されていましたが、そうした大きく強い規範で彩られた構想のいずれかが綺麗に実現したのではなく、実際の時代の転換とは、実は小さく弱い規範の試行錯誤の取捨選択と集積だったのです。」
とし、進化論的に時代を構想しようと締めくくっている。

さすが人類の長い経済史を研究してきた著者らしい。さて、我々は著者の問いにどう答えていくことができるだろうか。