「裁判の原点」大屋雄裕著 河出ブックス2018/04/09 05:29

★★☆☆☆

本書は、序文にあるとおり、「裁判は正義の実現手段ではない」という立場から、最近の判例を豊富に取り上げながら、裁判制度について論じたものである。

対談形式でわかりやすく、本書を通読して「裁判とは何か」について理解を深めることができる。

まず、裁判とは一定のルールの範囲内で争い、ルールの認める範囲で一定の結論を導くための制度という一般論から入る。そのため、一連の憲法裁判で原告の主張が取り上げられないのは、そもそも裁判所が扱う、裁判所に解決を期待するのが適切な問題ではないからだとする。

その上で、中古ゲーム訴訟やサラ金訴訟を取り上げ、司法も積極的に立法府に挑戦し、法規制を塗り替えていくような姿勢が見られるとする。

一方で、定数訴訟制度に見られるとおり、裁判を通じて全てを解決することは困難であるという点も指摘する。

さらに、非嫡出子の法定相続分変更の経緯を通じて、機能としての政治として司法の立場を明らかにするところは興味深い。

そして、性同一障害や成年被後見人に関する立法過程と、夫婦別姓制度に関する難航化の説明を通じて、立法府の中心的な活動の舞台は制度的な政治であるとする。

以上を踏まえて、裁判所の限界と制約を明らかにし、以下のように述べる。
「専門家によって最善の判断を追求するために能力主義的な選抜運営が行われる司法府と、最終の判断が示される立法府がそれぞれを尊重し押し入らないことが望ましい。」

その上で、
「主権者たる我々自身が、我々の手で政治を動かすことによってこの国のかたちを決めていくのだという民主制の基本的理念を再び思い出すべきではないだろうか。…正義の味方などもはやどこにもいない。」 と結んでいる。

裁判とは何か、改めて考えさせてくれる。